ppmじゃなくてPLLじゃないか?

10/06/20初稿

 Digital-Audioにおける音質を左右する要因として、「ジッタ(Jitter)」がよく取り上げられます。
 しかし、データ転送の理屈上、なんだか「?」な論調も少なくない気がします。
 特に、PC-AudioにおいてはPC内部のクロック精度(CPUクロックのこと?)が問題視されたりすることがありますが、本当でしょうか?


■そもそもジッタとは何か(水晶のppmのことなのか)

 ONKYOのC-1VLなどに搭載される「スーパープリシジョンクロック」の説明では、通常のオーディオ機器は50ppm、スーパーでは1.5ppmなのが凄いことになっています。また、ルビジウム発振などの超低ppmの外部クロックを使うと異次元の音になるとか。
 が、どうして水晶のppmが低いと音が良くなるのでしょう?
 確かにppmが低い方が望ましいとは思いますが、そもそも水晶(クロック)のppmとはあくまでも「発振精度」であってジッタではないはずです。私は以下のように理解しています。

・ppmで表現する発振精度
 あるべき周波数に対する実際の製品の発振のズレのこと。
 つまり個体バラツキ範囲。保証動作温度内での変動や経年変化も含まれる。
 10/10/07追記:とある展示会で水晶発振器メーカさんに確認しましたが、上記理解でよさそうです。例えば電源電圧変動による影響を動的に受ける可能性はあるようですが、おそらく0コンマppmの世界だろうとのこと。

・ジッタ
 そのズレが動的に変化すること。
 10/09/19追記:ps値で示される? と最初書きましたが、psは特殊な単位ではなく「PicoSecond」、つまり10の-12乗秒だったようです(とある技術者に確認)。そのくらいの「揺れ」があるという意味のようですね。ちなみに1MHzの周期は1us(-6乗)。1GHzの周期が1ns(-9乗)。

 14/11/03追記:下手な例えですが、アナログ時計で言えば、「発振精度」は年に何秒ズレるか、「ジッタ」は秒針の揺れ、ってイメージでしょうか。

 ちょっと調べた限りでは、水晶の性能としてppmは語られてもジッタが語られることはほとんどないようで、その関係はヨクワカリマセン。
 なので、仮に、ppm値がそのまま動的に変動する(最悪1周期ごとにppmレベルで違う)、とした場合の音質への影響を考えてみたいと思います。
 ちなみにppmは100万分の1。1ppmは0.0001%となります。
 さらにちなみにppmは「Parts Per Million」の頭文字、パーセントは「Per Cent」で100分の1って対比が覚えやすそうです。


■ppm精度は音質に影響するか:原理編

 MCLK(Master Clock)を発振する水晶の1周期がppmスペックレベルでぷるぷる揺れるとしましょう(あくまでも仮に)。で、最終的にアナログ波形として知覚するジッタは「サンプル間隔の揺れ(ピッチ変動のイメージ)」だとしましょう。CD音源なら44.1kHzの周期、約22.676usです。
 MCLKには44.1kHzの256倍の11.289MHzの水晶が用いられることが多いと思います。逆に言うと、MCLKから44.1kHzの周期を生成するには256周期をカウントします。44.1kHzの周期(22.676us)のジッタの原因がMCLKのppmであるとするなら、MCLK1周期単位レベルの動的なジッタの256分の“合計が毎回変動”していることになります。あるサンプリング周期では256周期分の合計誤差がプラスにふれ、あるサンプリング周期ではマイナスにふれたりするということですね。
 しかし、普通に考えるとマクロ的には(256周期分としては)プラスとマイナスの変動が平均化されてしまうのではないでしょうか?
 なので、LRCLKのジッタ絶対値は原発振である水晶のppm絶対値程度が残ることになり、ppm値としては1/256くらい低レベルになるハズです。
 ちょうど44.1kHzに近いppm変動の周期があってシンクロ(共振)してしまうのだというのであれば話は別ですが、ちょっと考えにくいと思います。水晶にはサンプリング周期の切り替わりタイミングなんて判りませんから、その周期ごとにプラスにふれたりマイナスに振れたりはできないはずですから。
 よって、仮にppm値が水晶のジッタだとしても、例えば20ppmの水晶から生成するLRCLKのジッタは0.1ppm程度(一千万分の1の周期誤差)…実際の値では22.676us±2ps程度となり、流石にこれを聞き分けているとは思えません。 というか、後述するPLL精度など“他の要素の方がずっと大きい”と思いますので、ppm値がジッタだとしても音質に影響を与える大きなパラメータであるとは思えません。
 そもそもppm値はジッタじゃないと思いますし。

 以上より、基本的に、水晶のppm値は「サンプリング間隔の揺れ(ピッチ変動のイメージ)」という意味でのジッタとしては音質に影響は与えていないと考えています。当Blogでは水晶の精度というのは動的なジッタではなく静的なppm値を指すこととします。


■ppm精度は音質に影響するか:実践編

 前述はあくまでも原則論です。MCLKを文字通りマスターとしてデータを転送する場合(原則として機器内部)についてであり、機器間をI/Fする場合の事情はまた別です。

 Digital-Audioのほとんどの機器間I/Fには送信側と受信側お互いの事情に合わせて“データレートを一致”させる概念がないからです

 送信側と受信側でデータレートの調整制御しない限り、システムは送信側のタイミングで動かざるを得ません。USBからS/PDIFを生成するDDC、S/PDIFからアナログ信号を生成するDACユニット、それぞれが自分用のクロックを生成して動いたとしても、マクロ的には送信源のタイミング(データレート)に同期せざるを得ません。そうでないと、必ずいつかはどこかでサンプルが「足りない」「余った」という状態になるからです。「受信側で強制同期を行う」とでも言えましょうか。
 その観点で、USBオーディオにおけるそれぞれのブロックにおける事情を見てみます。

 PC→(USB)→DDC→(S/PDIF)→DACユニット という構成を想定します。

 USBオーディオのデータ転送は普通「アイソクロナス転送」です。1ms(USB1.1のClass1の場合)というフレーム単位で転送され、受信側(DDCやDAC)ではこの周期やデータレートをベースとしてサンプリング周波数を生成します。
 生成する周波数をPC側のデータレートにシンクロさせるかシンクロさせないかで大きくふたつの方式のデバイスが存在しているようです。

・PC→DDC事情(USB):アダプティブモード編
 まずはシンクロする代表として「アイソクロナス転送アダプティブモード」を見てみます。
 USB1msの精度は送信側PC、もっと詳しく言うとUSBコントローラのクロック回路の生成精度となります。Intelプラットフォームの場合であればICH(Nehalem世代以降はPCH)に内蔵されるUSBコントローラが使っているクロックの発振精度に依存するということです。
 このクロックは48MHzです。PC内部では多数の周波数が必要ですので、クロックジェネレータというICが複数のクロックを生成しています(PLLという技術が使われます。これがキモだと思っていますが、PLLについては後述します)。ICH用48MHzもそのひとつです。
 つまり、アイソクロナス転送の1msのppm的な精度はクロックジェネレータの48MHz出力の精度であり、ひいてはクロジェネの原発振水晶の精度に依存するハズです。14.318MHzが用いられ(PCの歴史から)、およそ20ppm程度のものが使われるようです。
 基本的には、これがそのまま1msの精度になるハズですが、それ以前に、PC内部割り込みなどで1msが確実にカウントされるとは限らない可能性があります。ちょっと待たされて長くなったり、その分次は短くなったりすることもあるのではないかと思います。
 これは精度ではなくまさにサンプリング周期のゆれ=「ジッタ」となるでしょう。やっぱりppmとは関係ありませんが。

 PCによるUSB転送周期やデータレートから再生用クロックを生成しているDDCの場合、このクロックジェネレータの精度の低さや割り込み待ちなどによって発生するジッタはそのままS/PDIFに伝播すると考えていいでしょう。これが一般的に言われる「USBクロック(PCクロック)を使ったDDC(DACユニット)は音が悪い」の大きな理由ではないかと思います。
 この代表的なチップがBBのPCM270xのようです。1msごとにシンクロしなおすそうです。このチップの仕様に「Adaptive」と記載があるので、このチップの動作がアダプティブモードの動作として語られているようですね。

・PC→DDC事情(USB):アシンクロナスモード編
 一方、USB転送周期とは別に独自のクロックを生成しているDDCの場合は、そのクロックの精度(ppm)に依存するハズです。
 これが「アイソクロナス転送アシンクロナスモード」ですね。AudioクロックはPC側から独立した水晶による生成でしょうから、ジッタについては、ppmは基本的に影響していないという最初のロジックに当てはまります。

 しかし、本項の最初に記載した通り、「アシンクロナスモード」ではデータレートが異なるためサンプルの過不足が発生する可能性があるという問題があります。これについてもppmは大きなパラメータではありますが、ジッタとは別のハナシになりますので、別記事で詳述したいと思います。
 結論を引用しますと、サンプル過不足が発生しているとしても、それはある周期で1ms分のサンプルが連続したり欠落したりする現象になるので、いわゆるジッタによる劣化とは全く違う現象になります。

・DDC→DAC事情(S/PDIF)
 S/PDIFは「Embedded Clock」方式なので、1本のシリアル信号からDATAとLRCLKとMCLKを抽出します。このMCLKをそのまま使うDACユニットもあるでしょうし、やはり独自クロックを準備し、“マクロ的に”S/PDIFのタイミングと同期させているDACユニットもあるかも知れません。
 といっても、S/PDIFではそれこそ(いわゆる)フロー制御は絶対不可能ですから(何故って一方通行ですもの)、データレートの違いを無視した独自クロックによる完全非同期の機器はおそらく存在しえないと思います(技術的にではなく設計思想として)。
 では、AVアンプなどのキャッチコピーで見かける「ジッタークリーナー」と言った機能は何でしょう?
 ひとつは、サンプリングレートコンバータ(SRC)を指すかも知れません。
 他には、理解しきれていないのですが、S/PDIFに内蔵されるクロックを1/1分周PLLによって再生成(リクロック)する、という機能があるように見えます。

 14/07/04追記:シリコン・ラボラトリーズ社製Si5317という「ジッタークリーナIC」のリリース記事です。
 http://silabs.newshq.businesswire.com/sites/silabs.newshq.businesswire.com/files/press_release/additional/Japanese_-_Silicon_Labs_Eliminates_Jitter_with_Industrys_Easiest-to-Use_Clock_Cleaner_IC.pdf

 また出ましたPLL。これまでの記述で避けて通れずちょろちょろ出てきたPLLですが、次にこのPLLと音質の関係を考えます。


■すべてはPLLに帰結する(ppmじゃない)

 以上、「水晶のppmスペック」とジッタは関係ない、と考えています。
 では、いわゆるUSBクロック(1msフレーム周期)をそのまま使うDDCブロック以外では音質に影響を与えるジッタは発生していないのでしょうか。
 音質に影響を与える(ppmとは関係ない)クロックの揺らぎ=ジッタの発生はありえると思っています。

 これまで見てきたように、

・USBクロック(1msフレーム周期)からサンプリング周期生成
・S/PDIFからAudioクロック生成
・リクロック回路

などではPLL(Phase Locked Loop)が必ず使われます。PCのクロックジェネレータはPLLの集合体です。
 DACチップに入ってくるクロックを作っているのは多くの場合PLLでありその原発振ではありません。いわんや送信側の原発振をや。つまりクロック精度を最終的に決めているのは水晶のppmではなく、PLLの精度なのです。

 PLLのキモはVCO(Voltage Controlled Oscillator…電圧で発振周波数を制御できる)です。
 文字通り電圧値が周波数になるワケで、電圧の精度が発振の精度と直結します。
 つまり、PLL回路の電源の安定度がそのままPLL発振の安定度に…逆に言うと、電源の不安定度(ノイズや電圧変動)がPLL発振周波数の不安定度(=ジッタ)になる、のではないかと考えています。
 上記の記載では敢えて触れませんでしたが、PLLを使っている部分…PCのクロックジェネレータによる1ms=いわゆるUSBクロックや、そのUSBクロックからのAudioクロック生成、S/PDIFのEmbeddedクロック抽出などについては、PLL動作の健全さ具合による音質劣化要因を多大に含んでいる可能性があります。

 つまりはPLLを安定動作させる=電源&GNDを安定させる(クリーンにする)=音質向上と言えるのでは。入力クロックの波形品質にも影響されるでしょう。入力が低ジッタの方がいいのは言うまでもありません。例えばYAMAHA製AVアンプに搭載されている「ウルトラロージッターPLL」とは、この部分の品質を上げたものだと理解しています。
 やっぱり水晶のppmは関係ないと思う。
 14/11/03追記:念のためですが、最初に「低い方が望ましい」と記した通り、関係ないのは“原則として”です。ppm値はロングレンジの発振精度のことであり、ジッタはミクロな周期誤差ではありますが、NDK社のページにある記述の通り“結果的に”は関係はあるようです(保証はされないのでppmが良くてもダメな場合もあり得るでしょう)。

しかしながら、長期周波数安定度の高い高精度な水晶発振器は内蔵する水晶振動子の精度も高く、結果として特に離調周波数が1Hz~1kHzの範囲において位相雑音が良くなります。
出典:http://www.ndk.com/jp/ad/2013/001/index.html


 ただ、水晶から生成される(時として原発振そのまま?)MCLKはDACチップ動作(を初めとするシステム)の基準クロックではありますから、MCLKにジッタがあるとするならDAC動作に何らかの影響を及ぼしている可能性は否定はできません。が、それはすでに前述の通り音声波形の時間軸上のズレとして現れる問題ではないと思っています。
 DACチップのMCLK(PLLで生成されることが多い)に含まれるジッタはD/A変換動作自体を不健全にしてアナログ波形を乱す可能性もあるのではと。どうも技術的には「ダイナミックレンジを削る」方向に悪さするようですが、詳細は解っていません。

 ここで、このような論文があるようです(*)。お金払わないと読めないみたいなので「ディジタル・オーディオ・インターフェイスのビット・ストリーム」って何のことなのかなどは判りませんが。

*:http://ci.nii.ac.jp/naid/110003284583

 どうも、音質評価は「主観評価」でやってるみたいですね。


■おまけ

・EDN Japanに掲載されている日本TIのエンジニアさんの記事に、ジッタとPLLと音質の客観的分析が記載されています。必読です。
http://ednjapan.cancom-j.com/issue/2007/9/6/28/1
 14/11/01:URLが変わったようです。
http://ednjapan.com/edn/articles/0709/01/news016.html

・同種のことを、本田雅一氏も早くに指摘されています。
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0806/19/news018_2.html

・AyreのWhitePaper。
http://www.ayre.com/pdf/Ayre_USB_DAC_White_Paper.pdf

・ちなみに「VCXO」とは「Voltage Controlled Xtal Oscillator」の略で、VCOの発振器に水晶を使ったVCOの一種です。EDNの記事にもありますが、セラミック発振器などに比して可変範囲が狭く高価ですが安定性が高くなるそうです。
http://www.cqpub.co.jp/toragi/TRBN/trsample/2004/tr0405/0405den4.pdf
 YAMAHA製AVアンプDSP-Z11のスペックには「VCXO制御PLL搭載」と謳われていますね。さすがフラッグシップ。

・S/PDIFの光ケーブルの場合、そのコネクタ部分の振動によって発光素子とケーブルの入光部の角度が変化し、光信号波形を崩すことでジッタの要因となる可能性は考えられます。あくまで可能性ですが。

・アダプティブモードDDCの場合、PCが作り出す1msの精度に依存するワケですから、「PCのクロックジェネレータ性能」によってかなり影響を受ける可能性があります。つまり、PCを換えれば音が変わるかも、ということです。
 搭載しているクロックジェネレータの仕様次第、PLL回路設計次第ということになりますが、PC用クロジェネにはPCグレードしかないでしょうし、そもそもPCはそんなこと気にして設計されているハズがないですし、高いPCならいい、ということもないでしょう。選びようがないですね(苦笑)。

・12/08/24追記:本日、本稿と同種の記事がEDN Japanに掲載されました。


■余談

 音源データを同期やバッファやPLLせず、DACユニットのクロックで取り出せれば理想的だということが判ると思います。残念ながら(たぶん)USB-AudioやS/PDIFではできませんが、かなり理想に近いのではないかと思われる身近なDigital-Audioがひとつあります。
 iPodのDigital再生です。え、LINNのDS?(笑) あれはネットワークと電気的に接続することによるノイズの問題はどうなんでしょう? AVアンプの「DLNA再生」も含めてネットオーディオではそこがネックになるのではと思っています(オーディオ用ハブとか出てくるのでしょうねぇ)。パルストランスは入ってますけど…
 ND-S1によるiPod音質の評価が大変高いのはこのためではないかと推察しています(逆にPCのDDCとしての評価は普通ですよね)。
 ついでに言うとND-S1+iPodはトランスポートと音源デバイスの電源が共通なのでグランドループの心配もないし。

      

 S1、S10、S1000。3兄弟。S100がないぞ(笑)。


 この理屈では、「AVアンプのUSBメモリ直再生」もいい線イケるハズなんですけどね。

 PCの内部バス接続のサウンドコントローラでも、コントローラのクロックをマスターに音源データをゲットできるという点では同じかも知れません。が、PCの電源やGND事情ではAnalog出力は限界があります。S/PDIFも同軸ではノイズを伝送してしまいます。光にしてもその波形は元電源のクリーンさに依存します(発光素子の電源とGNDと信号波形に影響される)。
 ので、iPodトランスポートよりは理想から離れますが、PC本体のノイズレベルやサウンドデバイスの出来によってはワリとイケル可能性もありますね。AtomのMini-ITXで試してみたい気もします。


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