ビットパーフェクトなままなのにパーフェクトじゃないなんて

11/12/29初稿

 最近(でもないか)、“ストレージ上の在り方?”によってバイナリ一致でも音が変わる…「音楽データはメディア間をコピーしていくうちに音質的な劣化を生じる」という説があります。バイナリは変わっていないのに(データファイルなので当たり前ですが)、です。「世代落ち」って言い方もあるようですね。さらに、ファイル名が異なると音質が変わるといった説も…

 そんなことあるのでしょうか?
 デジタルデータの0/1が変わっていなくても音が変わる理屈は自分なりにだいぶ付けられるようになってきたと思いますが、それでは「世代落ち」らの理屈は付けられません。
 そこで、自分の理解を進めるためにもここに記してみようと思いたちました。
 ホントだったらファイル管理について考えないといけませんから…


■「世代落ち」とは何か

・大前提
 まず、「コピーすると劣化する」のと「別のメディア(にコピーして)から再生すると変化する」のを区別すべきである点に注意が必要です。内蔵HDDと外付けHDD、CDとCD-Rなどの違いは「世代落ち」「コピー劣化」ではありません。
 コピーによる劣化だけを考えるためには、「メディアが違うというパラメータ」はナシにしないといけません。例えば、HDD上の第1世代(マスター)と、そこからコピーを繰り返してから同じHDDに書き戻した“第n世代”を比較しないと「世代落ち」は語れません(厳密には同HDDでも全く同じメディア状態とは言えませんが)。

 また、光ディスクなどの媒体が経年変化などで劣化することとも全く別問題です。

 また、JPEGなどをデコード表示して保存しなおす場合など、再エンコードされてる可能性がある場合も別問題です。

 また、例えばHDD→HDDのファイルコピーについて猛烈に念のためですが、HDDディスク面から読み出された波形はそのまんまアナログ的な経路でコピー先のHDDに届いて改めてディスク上に磁気記録されるワケでは全くありません(カセットテープのダビングなどとは全く違います)。
 猛烈に念のためですが。

・プロも言ってる?
 本項16/04/03追記。
 「マスタリングエンジニア」などの音楽制作者さんが「コピーすると音が悪くなる」「世代落ちを管理する必要がある」などと発言されていることがあるようです。
 この場合、普通は業務上の経験、例えば「マスターのHDD」と「マスターからコピーしたそれ以外のメディア」からの再生音質を(意図せず)比較していると推察します。具体的想定としては「納品用の光メディアがちゃんと書き込まれたか確認のため再生すると、マスターHDDからの再生となにか違う」などです。「同一HDDへの繰り返しコピー実験の結果」とは思えません(笑)。
 つまり、語られているのはおそらく「メディアを変えれば音は変わる」という現象であり、コピー回数だけをパラメータにした真の意味での「コピー劣化」「世代落ち」のことである可能性は非常に低いと思われます。

 でも、なぜ「変わる」ではなく「悪くなる」と感じるのでしょう?
 それはおそらく、マスターで音を整えたため、そこからコピーした別メディアからの再生音が変われば「変化は劣化に聴こえる」のだと推察します。少なくとも「子世代」は劣化に聴こえるでしょう。そして、子世代で“コピーすると劣化する”と経験したことによる先入観で、孫以降の世代の変化はどんどん劣化する方向に聴こえるのでは。
 子世代が納品用光ディスク、孫世代(?)がプレスCDだと仮定すると、マスターから次々劣化していくように聴こえても不思議はないでしょう。
 プレスCDからエラーなしリッピングしてマスターと同じHDDにコピーして聴いても「世代落ちしてる」と聴こえるか気になるところです。

 なお、「マスタリングエンジニア」さんは“音楽製作の”エンジニアではありますが、デジタル技術に精通しているとは限らないでしょう。例えば、Excelを使いこなす達人はPCの仕組みを熟知しているとは限りませんよね。
 全てを理解している必要はないでしょうが、TruePeakやMaxPeak、PCMオーディオのベースとなるサンプリング定理の基本などはマスタリング技術の範疇だと思うので、それらを知らないのはどうだかな~と思います。が、インタビューや製作レポートなどを読んでいるとそういう場合もあるような…


 ちなみに、全く素人ながら、音源の工場への入稿(?)は「DDP(Disc Discription Protocol)」なる形式で行われるようです。「メディアへの依存性はない」とあります。

http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070305/dal272.htm
http://www.riaj.or.jp/f/pdf/issue/ris/ris_ddp2005.pdf


■可能性を考える

・デジタルシステムにおける「データ転送」:直接的影響
 本項14/06/29追記。
 デジタルシステムにおける「データ転送」についてまず記した方がよい気がしてきましたので、追記しておこうと思います。
 例えばストレージ上の記録状態が異なっていたとしても、読み出された波形は「そのまま」「オペアンプで増幅されたり減衰されたりしながら」信号線上を通って「リアルタイムに」「ストリーミング的に」DACにInputされるワケではありません。このあたりアナログ信号転送(というか伝送)イメージで捉えていると「?」になっちゃうと思います。
 デジタルシステムにおけるデータ転送のイメージを以下に添付します。DAC入力のイメージとして。

データ転送

 原則、デジタルデータ転送ではクロックの「エッジ(上図では立ち上がり)」でデータの「0と1」を判断して次段に取り込みます。上図は入力されるデータがなまっている例ですが、「電気的HighとLowのレベル」が充分「情報として1と0」と判断できるスレッシュを超えていればデータ転送はエラーなく成立します。例えばスレッシュが3Vだったとしたら、“元気なくて3.1V”だろうが”ビンビンで5V”だろうが「1」、0V~2.9Vは「0」です(実際にはHとLのスレッシュ値は異なりますが簡略化しています)。スレッシュ値さえ守っていればデータ信号の状態は関係ありません。0/1判定がランダムに変わっちゃうような場合はエラービットまたは回路設計ミスです。
 そしてDACチップが認識してそのレジスタに記録した0と1の電気的状態は、入力信号の状態ではなく“DACチップの電源状態やノイズ状態に依存する”ことになります。
 直接的な「0と1の状態」ではなく「DAC全体の状態」は間接的に入力信号に影響を受ける、とは思いますが、それは後述します。

 なお、いうまでもなく、読み出し時のクロック信号は再生動作時に発振されるものでストレージ記録時のクロックとは無関係です。

 レジスタやバッファやメモリへは、入力信号をそのまま記録するものではありません。そのデバイスの機能(Highならこれくらいの電荷をためる、といった仕様)に基づいて記録します。読み出し時はそのデバイスの機能(Highなら電源電圧の5V、といった仕様)に基づき0か1を出力します。ライト時の波形は関係ありません。
 0か1かは、振幅上は「スレッシュ」、時間軸上は「クロックのエッジ」というピンポイントで判断します。データ信号がふにゃふにゃしていてもフラフラしててもバッチリ確定されます(データ信号のエッジは関係ありません)。
 曖昧な要素はありません。だから“デジタル”なのです。


 上図はDAC入力段のイメージを記しましたが、デジタルシステムではこういう転送を何段階も繰り返しているのです。途中でメモリやレジスタ記憶され、ミクロで見るとノンリアルタイムでの転送になります(HDDアクセスランプが間欠で点灯するように)。転送途中はサンプリングクロックと同期している必要もありません(転送が間に合えばよい)。上図「転送データ」をHDDディスク面からの読み出し波形、「DAC」をHDDコントローラチップのレジスタ、と読み替えていただいてもいいかと思います。

 ちなみに、DRAMはゲートの開け閉めで電荷を貯めたり放出したりして0と1を記録するワケですが、ほっとくと電荷が逃げてしまう特性を持っているため定期的に「書き直し(リフレッシュ)」をしています。
 メインメモリ上の電荷は書き込まれた時のままではないということです。

 さらにちなみに、データ通信はネットワークだけに限らずSATA-I/Fなどもパケット化されています。もちろんサンプリングクロックとは無関係です。特殊なシステムでない限り、DACチップに届くまで全くパケット化されないということはないと思います。
 ネットワークを通すと良化されるという説の理屈はヨクワカリマセン。

 以上より、「ストレージから読み出された信号の“波形の質”にたとえ差があったとしても、それがそのまま転送されていくという想定は非常に厳しい」と思います。

・デジタルシステムにおける「データ転送」:間設的影響
 よって、可能性を考えるとしたら間接的なシステム全体への影響になると思います。ストレージから読み出した波形がノイジーなのでシステムのGNDを汚すとか、波形の電圧レベルが高いので次段の信号にノイズが入るとか…
 上図では「そのままの波形が転送されるのではない」ことを示すため敢えて「間接的な影響」は無視していますが、次に、例えばLowレベルがHighレベルより短くなっており、かつ立ち上がり・立ち下がりにオーバーシュートがある入力データが後段へ与える影響イメージを図示してみます。

データ転送ノイズ

 「DAC内レジスタから読み出される0と1」の部分は、その上の図でレジスタに記録されたデータがDAC内部で読み出される際「転送データ」のノイズに影響されているイメージを示しています。
 間違っても「ノイズもラッチされている」という意味ではありません。

 さらに、入力データにジッタがあった場合、その影響(ノイズ)はデータの転送クロック周期レベルで変動することになります。

データ転送ノイズ:ジッタ変動

 この間接的影響は否定しきれませんが、アクセス時のみの間欠的影響になるハズです。

・「ビット品質差」はストレージに記録されるか
 念のためですが、HDDってディスクに直接WAVファイルの0/1を書いてるワケじゃありません。ECC情報など付加されてエンコードされた状態で記録されています。直接溝を削る蓄音機じゃないので。 例えば「オールゼロファイル」を書いてもディスク上ではオールゼロにならないでしょう。
 そして、そもそも磁気記録ですから0も1もないのですが、「Nが0でSが1」ってワケでもなく隣接ビットの磁化変化で0/1を記録しています。
 富士通研究所のpdfなどイメージしやすいかと思います(冗長度の件は省略されています)。

https://www.fujitsu.com/jp/group/labs/documents/resources/tech/techguide/list/hdd.pdf

 ですので、データ波形の違いが記録されるというなら、これら「ECCエンコード」や「電気ではなく磁気で記録」や「レベルではなく変化で記録」といった変換を乗り越えて残ると考えねばなりません。
 そして、それは「無通電状態でも保持される差分」ということになります。
 その可能性を列記してみます。

・HDD:サーボクロックやヘッド制御クロックのジッタが異なって、ビットサイズが変化
・HDD:ヘッドの帯磁状態が異なって、磁化状態が変化
・SSDなどシリコンストレージの場合:電荷量(電子の数)が変化(*)

*:以下東芝の資料をみても、これしかあり得ないと思います(要因は思いつきませんが)。「浮遊ゲート内の電子にも音のいい電子と悪い電子がある」ってことはないと思いますので… 量子論までいっちゃうのは避けたいです(笑)。

https://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/private/tec_book/tec201008.pdf

・記録時の残照はストレージに保持されるか
 ビット品質差が記録されるとしても、以下事実によってそれは保持されないのではと考えています。

・HDDデフラグ
 デフラグすれば1台のHDD内部のみで磁気記録場所を変更してるワケです。この時も磁気記録状態は劣化するのでしょうか。もしそれが“結構アリ”だとすると、デフラグやりすぎると磁気記録状態が劣化しすぎて読めなくなっちゃいそうです。同じHDD上で何世代もコピーしすぎるのもダメそうですよね。でも、そんなハナシ聞いたことないです。
 読めなくならないまでも、自動実行にしておくといつの間にか音質変わっちゃうことになりますね。

・HDDセルフリライト
 日経WinPC2012年2月号P.84にはHGST社インタビュー記事として「HDDは動作中に読みにくくなったデータをもう一度書き込む」という記載があります。これがホントなら、もしコピーで波形が“でろ~ん”となってしまっても、いつのまにか勝手にシャッキリするかも知れないってことですよね。

 もちろんHDD以外のストレージにも“そのまんまじゃない”事情は数多ありますが、本項では割愛します。

・まとめ
 ということで、一応「ビット品質差」はあり得ると仮定しても、「転送システムの理屈」と「ストレージ上の保存機能」と「実際の現象」から、個人的には次のように考えています。

・直接的影響
 「世代落ちする」「劣化する」と、「まんべんなく音が変化する」という現象になると思います。とすると、ストレージ上のビット品質差がメモリやバッファを介しながら、エンコード・デコードを繰り返しながら、DACチップに入るストリーム信号にまで伝播するという“直接的な影響”しかないことになります。
 が、上述の通り、それは考えにくいと思っています。

・間接的影響
 ビット品質差による読み出し時の差の影響が間接的にシステム全体に影響することは否定しきれません。
 が、ストレージからの読み出しは決してリアルタイム(ストリーミング)ではなく間欠的ですから、再生中まんべんなくではなくHDDアクセス中だけ音質が変化することになります。そして、その変化具合が(HDDなら)磁気記録状態で変わる、ということになります。
 具体的には「第2世代は“アクセスランプが点滅している時だけ”ヴェールが1枚かかったように聴こえる。第3世代だとそれが2枚かかったようになる」といった現象になるということです。
 ていうか、ビット品質差による間接的影響があるくらいなら、ビット品質差以前に「読み出し動作」によって音質が変化してるのを感じちゃう気がしますけど(笑)。
 が、そもそもファイルオーディオにおいてそんな「ワウ・フラッタ」みたいな現象は経験したことありません。

 残るのは、「再生中はどこかでデータ転送されているのだから、ストレージ読み出し以外にもビット品質差の影響は常に発生している。よってマクロ的にまんべんない影響になる」という考え方くらいでしょうか。結局直接的伝播が前提になっちゃうとは思いますが。


 「世代落ち」について可能性を考えてきましたが、ERIでは、ノイズやジッタなどデジタル波形の質の差が後段に影響を及ぼすことがデジタルでも音が変わる理由の本質だと思っていますので、

・音を変えるパラメータはビット品質差として記録されるのか
・ビット品質差が記録されるなら、コピーすると(音質的に劣化する方向に)変わるのか
・ビット品質変化があるなら、再生系に影響を与えるレベルなのか


という観点で具体的に考えてみようと思います。


■考える前に

 この問題に限ったことではないのですが、この問題に限っては結構重要なポイントな気がしますので改めて確認しておきたいと思います。
 このような問題を考える時には、まずは
「何らかの操作やハードソフトの変更による音質への影響があるか否か」
判断する必要があります。
 そして、ここからが重要です。影響がないと判断したらそれでオシマイですが、影響があると考えたなら、
「音質に良い影響か悪い影響か」は、
影響の有無とは別の問題として検討する必要があるでしょう。
 さらに、善し悪しの理屈を考えついたとしても
「聴きとれる影響か否か」 は、
またレベルの違う問題です。
 ということを念頭に置くことが重要だと思っています。

 なお、ストレージの種類はたくさんありますが、本稿では一番現実的なHDDを中心に考えようと思います。
 ネットワーク上のNASも普通媒体はHDDですよね。


■デジタルデータはコピーすると劣化するか

・コピーすると音質が変わる可能性はあるか…というか比較できるのか
 前述した通り、まずは「音質に影響がある(差がある)のか」を考えてみます。

 ところで、聴き比べようとした時、「オリジナル」と「コピー」はそれぞれどこに格納するのでしょう? まさか内蔵HDDにある「オリジナル」と外付けHDDにある「コピー」で比較したりしないですよね。
 同じストレージ上に置けばいいような気がするかも知れませんが、コピー世代数以外の条件を完全一致させることは不可能です。何故って“ファイルシステム上の記録位置”が異なり、その影響は否定はできないからです。例えばHDDならディスク上の記録場所は当然違いますし断片化状態もたぶん違うでしょうから、読み出す動作(ヘッドシークとか)は異なるワケですので。
 例えばCDとCD-R、内蔵HDDと外付けHDD、HDDとSSDの違いなどは問題なくイメージできると思いますが、物理的にひとつのHDDでも、正確な意味での“格納場所”は同一にできないのです。格納場所を同じにする場合は同時には存在させられません。

 以上より、「オリジナル」と「コピー」のコピー回数だけをパラメータにした聴き比べは非常に困難だと思っています。
 ちなみに、外付けHDDにある「コピー」を「オリジナル」がある内蔵HDDにコピー後、外付けHDDを付けっぱなしで聴いたりするのもさらにダメですよね。
 ネットワークオーディオ(特に有線)でも、ネットワーク内のリッピングPCの状態変化(CDドライブを交換した場合など)は再生に影響を与える可能性もあります。あくまで可能性のハナシですが。

 「差がある」という試聴結果においては、この点どのように考えたのか注意する必要があるでしょう。
 もちろん、ケーブル換えるのだって完璧にケーブルだけの影響を聴くのは困難(変更作業時に周辺配線の位置関係が変わるとか)ですが、もともと「同時にふたつの状態」にはできません。が、バイナリデータの置き場所については同時にふたつの状態に“できたように見えてしまう”ことの違いに注意すべきでしょう。
 バイナリが同じでも“格納場所が異なればシステムの再生動作が異なる”ので最終的な音質に影響を与える可能性はある…というかCD再生とファイル再生で音違うワケですから、これは重要な問題です。

・コピーすると“劣化”するのか
 上記の通りですので、まずは「同一ストレージ上の格納場所による差の可能性も含めて」考えてみます。
 さて、そもそも、コピーによる状態の変化があるならそれは必ず「コピーするたびに蓄積されていく悪い影響」なのでしょうか。
 メディアが変われば同バイナリでも音質が変わる可能性があるのは間違いないので(だからこそファイルオーディオが成立する)、それは問題になりません。
 なので、例えば結構ハイスペックなPC(HDDを6台くらい搭載)でCDから内蔵HDDにリッピングしたWAVファイルを

  FAT32の外付けHDDにコピー
 →別のノートPCの内蔵SSDにコピー
 →クラウドストレージにアップロード
 →さらに別PCの内蔵HDDにダウンロード
 →ネットワークでさらに別の無線LAN&バッテリ駆動PCの内蔵HDDにコピー
 →高音質で評判のCD-Rに一曲だけのCD-DAとして焼いて
 →さらに別のファンレスAtomベースPCを使って内蔵HDDに低速リッピング
 →SDカードにコピー
 →リッピングしたPCの内蔵HDDにコピー(もちろんオリジナルと別名で)

なんて経路を辿らせて、リッピング直後の「オリジナル」と数世代を経た「コピー」を同一HDD上に得たとして考えてみます(実際の例ではなくあくまでも思考実験的な例として)。どうでしょう、“劣化しているハズだ”と感じるでしょうか。
 こんな経路を経てもバイナリは一致しているハズです(*)。一致していなかったらどこかのコピーでエラーが発生したということですが、普通はエラーしません。PCシステムとはそういうものです。

*:リッピング・ライティング時のオフセットズレは発生しないよう調整したシステムにおいて。なお、もちろん補間は発生していない想定です。

 さて、上記の最後に揃った「オリジナル」と「コピー」は、データ本体のバイナリは一致しますがファイル管理情報が異なり、かつディスク上の記録位置も異なります。
 しかし、その違いがもし音質に影響するとしても、例えばどちらのファイルの断片化状態の方がいい音に聴こえるかは判りませんよね(念のためですがコピーの方が断片化がひどいとは限りません)。また、ファイルシステム上の違いにおいても、「コピーするごとに劣化として蓄積」される要素は考えられません。断片化状態は毎回違いますし、ファイル名だってコピーするごとに長くなったりしませんし、コピーした回数が記録されることもありませんし。テロメアじゃないんだから。

・「ファイルコピー」という動作はメディアの記録状態を“必ず劣化”させるのか
 上記の通り「格納場所違いによる音質の違い」は(あるとしても)コピーの方が必ず悪いとは言えないと思いますが、例えば「HDDディスク上の磁気記録状態がコピーによって劣化することによって読み出し波形が劣化して音質に影響する」という説もあるようです。これは格納場所の問題ではなく純粋にコピー劣化原因の仮説ですね。

 コピーという作業によって0/1には影響しないレベルでデジタル信号記録状態が劣化していくという、まさに紙やアナログ音声・ビデオのコピーと同じ考え方だと思いますが、HDDや各種シリコンメディアや記録型光学ディスクなど各種媒体の記録システムは論理的にも物理的にも異なることもあり、コピーするたびに劣化が進むとは考えにくいと思っています。
 上記のコピー例で言うと、途中のPCシステムの状態によっては“劣化”ではなく“良化”される可能性もあるのではないでしょうか。
 例えば最後にSDカードからコピーすることを想定していますが、その時のシステムのノイズ状態は光学ドライブがガンガン動いていたリッピング時よりも少なくて“キレイに”HDDに磁気記録できるかも知れませんよね。だとしたら「コピー」の方がディスク上の磁気記録状態は(音質に)よいかも知れないワケです。

 プレスCDよりコピーしたCD-Rの方がCDプレーヤ再生時に高音質、なんてハナシはよく聞くところです。キレイな0/1が読めてるのが奏功ってことですよね。読み出すメディアを変えればコピーしても良くなる事例(コピー劣化説への反証?)とも言えますが、「HDDに限ればメディア上の記録状態は世代を経ると劣化していくのだ」という説もあるかも知れません。が、それも次に記すように非常に疑問です。
 シリコンメディアに関しても同じような説があるかも知れませんが本稿では割愛します。

・HDDに限っては“コピーすると必ず劣化”するのか
 ということで、メディアをHDDに限定して考えてみます。
 実は、過去にHDD上のオリジナルとそのコピー(子世代)を聴き比べたことはあるのですが、違いは判りませんでした。
 が、悪条件化で10世代くらいコピーすると劣化が判るようになるのでしょうか。
 「10世代じゃ判らん、100世代くらいコピーしたら判るようになる」といった意見もあるかも知れませんが、“どうでもいい”範疇に入りますよね。

 なので改めて実験してみました。
 リッピングして生成したファイルを「オリジナル」とします。リッピングPCで外付けHDDにダイレクトに書き出したものです。
 リッピングPCはメインPCですのでHDDが4機、SSDが1機、BDドライブが2機搭載されてたりします。そのPCで以下動作を同時に行ってノイジーな環境を作ります。

  ・BDドライブで内蔵HDDにCDリッピング
  ・BDドライブからBD-RE上のファイルを内蔵HDDにコピー
  ・MPEG2ファイルのエンコード

 この動作状態で、外付けHDD上の「オリジナル」を、リッピングPCの5機の内蔵HDD&SSDに順番にキャッチボールでコピーしていきます。
 最初に内蔵HDDにコピーしたものがコピー1世代め、それを外付けHDDにコピーしたのが2世代め…というふうにコピー10世代めを作りました。コピーするごとにHDDの記録状態が劣化するなら、光学ドライブやCPUがガリガリ動いている状況で繰り返しコピーされた磁気状態はかなり劣化しているハズです。
 その「コピー10世代め」をプレーヤPCにコピーします。もともと「オリジナル」はプレーヤPCにコピーしてありますので「コピー1世代め」はすでに存在しています。

 その2ファイルを聴き比べました。後述するフォルダ階層の問題を含めたHDD上の状態は異なることになりますが、やむを得ませんのでそれも含めての実験ということで。
 最初は違いが判るような気がして悩みましたが、やっぱり無さそうです。foobar2000の再生曲順を逆にしただけで印象変わっちゃったくらいですから(苦笑)。

・変化はするかも知れないが必ず劣化するとは言えない
 要は、もし磁気や電荷の記録状態が音質に影響を与えるとしても「コピー世代数には関係ない」ということです。 
 また、「コピーすると“良化?”することはなく必ず“劣化”する」という理屈が成立しそうにないと思います。なので、その時点で「コピー劣化説」は成立しないと考えています。
 逆に「絶対“変化”しない」という理屈もありません(もちろん前述の通り聴き取れるかどうかは別)。ので、だからこそ“世代管理”は意味がないでしょう。
 趣味ですので、「ファイルの在処による音質差(の可能性)の管理(というか再生お作法?)を楽しむ」のはアリだと思いますけれど。

・影響は聴きとれるか
 「影響はあるか」・・・ないとは言えない
 「あるとしたら良い影響か悪い影響か」・・・良い場合も悪い場合もあり得る
と考えてきましたが、「聴きとれるか」はどうでしょう?
 HDDディスク上の磁気記録状態の違いが読み出した波形の違いとなって制御LSIの動作に変化をもたらし、その結果データ信号や電源に載るノイズやジッタ?が変化し、それがHDDのバッファやPCのメインメモリやUSBコントローラやUSBケーブルなどを巡り巡ってDACに影響を与える…としても、そんな大きな影響度じゃない(他パラメータの方がずっと大きい)ような気もします。

・確かめるためには
 以上、「コピー劣化説」は、USBケーブルで音が変わる説などとは違い、私には有効そうな仮説が立てられません。実際に聴き比べても違いは感じませんでした。よって私は「コピー(世代)劣化説」の立場をとりません。
 ので、私はやるつもりはありませんが、「劣化説」の検証方法としては、

 音楽ファイル単位ではなく、「Sector by Sector」でHDDまるごとバックアップしたファイルを 何世代かコピーした後、元のHDDに書き戻した(リカバリした)場合と比較試聴

という実験がよいのではと思っています。ファイル管理情報すら同じになりますから、純粋に「コピー」による影響だけをパラメータにできるハズです。
 同時に存在できないため聴き比べは間隔が空くので難しいですけど、物理的に同じHDDにリカバリしないと、たとえ同じ型番・同じロットのHDDでも何らかの違いは発生するかも知れませんからねぇ。
 物理的に同じHDDでも磁気記録状態の違いでECC動作率が異なって…とか、セクタコピーでも「不良セクタの代替」などで完全一致はできないかも知れませんが…って考えたらキリないですね。
 HDD全部じゃなくてパーティション単位でもいいかも知れませんけど、できればHDD全部がいいでしょう。あ、もちろんHDDじゃなくてもいいですけど。


■ディレクトリ階層が深いと音質は悪くなるか

・階層と音質に相関関係は成立するか
 「再生するファイルのディレクトリ階層が深くなるほど音が悪くなる」という説も、「コピー劣化説」と同じく非常に疑問に思っています。
 ぶっちゃけ、

・HDD上のデータ本体は階層構造で記録されているワケじゃない
・HDDは、ユーザがOS上からディレクトリの階層を辿ってファイルを探すようなアクセスの仕方をしてない

というあたりに勘違いがあるだけじゃないかと。
 巷で語られている仮説は大きくふたつあると思っています。

仮説1.ディレクトリ階層が深いとデータはHDDの“音が悪くなる領域”に記録される
仮説2.ディレクトリ階層が深いとシステム動作が“深くなって?”音が悪くなる

 例としてHDD上のNTFSの場合で考えてみます。

・仮説1「ディレクトリ階層が深いとデータはHDDの音が悪くなる領域に記録されている説」は成立するか
 対象ファイルがディレクトリのどこにあるかはMFT(Master File Table)というファイルに書かれているだけであって、データ本体はそのMFTによって関連づけられたHDD上のアドレスにあるワケです。HDD上のアドレスとは平たいHDDのディスク面のどこかのことですが、ディレクトリ階層とは直接的には無関係に関連づけされています。それは、デフラグするとデータのHDD上の記録場所は移動しますがOSから見えるファイルの在処は変わらないことからも判ると思います。

 つまり、ディレクトリの深いところにあるからと言ってディスク面の「深いところ(アクセスするのが大変なHDD内の秘境みたいなところ? それってどこ?)」にあるなんてことはないのです。
 なお、前述した通りデータがディスク面のどこに記録されているかによって音質が変わる可能性はありますが、たとえ「音が悪いHDD上の記録場所」があったとしても、上記の通り「ディレクトリが深いほどより悪い場所に記録される」ワケはありません。デフラグしたら在処変わっちゃいますから安定的に悪いところにあるとも言えませんし。

・仮説2「ディレクトリ階層が違うとシステム動作が変わるので音質が変わる説」は成立するか
 ディレクトリ階層が違う=OSやアプリにとってのファイル名が異なるのですから、本体バイナリが同一ファイルでも再生動作は完全に同じ状態とは言えないワケで、その音質への影響は絶対にないとは言えないでしょう(主にプレーヤソフトにおいて?)。PCのメインメモリの中身の0/1状態は変わってますからねぇ… OS設定で音が変わるのと同じような面がありますから否定しきれません(爆)。

・階層が音に影響するなら深いと必ず“悪くなる”のか
 一応、仮説2を否定しきれない=階層の影響は否定しきれないとしましょう。とすると、次にすべきは「良い影響か悪い影響か」の判断です。

 う~ん、もし階層の違い(ファイル名の違い)が音質に影響を与えるとしても、深くなるほど悪くなる一般的な理屈を思いつきません。プレーヤソフトに依存するのではないでしょうか。といってプレーヤソフトを変えたら階層の影響どころじゃない影響ありますよね。
 また、階層が深いと音質が悪いなら、ファイル名の長さとか言語(英語名か日本語名か)まで気にしなきゃならなくなりますから、なるべく短めのファイル名にしてなるべくルートに置かなきゃならなくなります。
 「ファイルオーディオ」な以上“気にしても仕方ない”ことではないでしょうか。
 もし違って聴こえてもプラシーボだと思って忘れた方が幸せになれそうですよ(笑)。
 ということで「影響は聴きとれるか」は省略(苦笑)。

・確かめるためには
 上記の通り、もし違って聴こえてもどうしようもないので私はやるつもりはありませんが、どうしても上記(仮説2)を確認したい向きは次のような実験がよろしいかと思います。

 ルートに置いたファイルの音を聴いた後、同じHDD上のすんごく深いディレクトリに「移動」して比較試聴

 同じHDD上でコピーじゃなく移動するのがミソです。この場合、データ自体は移動も複製もされておらずMFT上の“ファイル名(ディレクトリ含む)”が書き換えられただけ(だからでっかいファイルでも移動は一瞬で終わる)ですから、磁気記録状態だって変わりようがありませんので、階層(ファイル名)の影響だけが聴けるハズです。
 ただ、「ファイルテーブルを書き換えた」というOS状態(動作履歴)の違いが発生していますので、屁理屈を言うとそれだけでメインメモリの状態が変わっている可能性もありますから、再起動してから比較すべきでしょうね。音質を覚えているのが大変ですけれど。というか再起動すればメインメモリの中身が完全一致するという保証もたぶんないですけど。


■ストレージの使用状態による音質差はあるか

 例えばHDDにファイルを追記するだけでも音質が変わるという説もあります。
 そりゃ、絶対に変わらないとは言えませんよね。HDDディスク上の磁気記録状態が変わったワケですし、OSのファイル管理情報も変わったワケですから。
 でも、前述した通り「聴きとれるレベルか」が重要だと思います。言い換えると「他パラメータに対して十分に有効な影響度のあるパラメータか」ということです。
 もっと言うと「何かあるとしても、音質に良いように管理できるのか」がキモですよね。
 さらに言うと「管理することと利便性のトレードオフがあるなら、どちらをとるべきレベルの音質差なのか」でしょう。
 …気にします?


■おまけ

 「ケーブル換えたりOS設定変えたりすると音が変わる」と考えることと、「コピーすると劣化する」と考えることは何か本質的に違う気がしていますが、自分でもごっちゃになりそうです(苦笑)のでちょっと記しておきます。
 例えば

  ・AというケーブルとBというケーブルのどちらがよいか
  ・CPUクロックが速いほうがよいか遅い方がよいか
  ・とあるOS設定のEnableとDisableはどちらがよいか

などは相対的比較論です。自分ではこう考えるし自分のシステムではそう聴こえるのでこっちを選ぶ、ということですよね。SSDとHDDどちらがよいか、などもそうでしょう。ある意味主観的な領域で楽しめばよい要素と言えましょう。超学術的な測定解析を行わない限り真実かどうかは判りませんし、最終的な音質はその時のシステムに依存するでしょうし。
 一方、「コピー劣化説」は客観的なロジックと言えます。「USBケーブルで発生するデジタルデータ転送エラー量が多いとヴェールがかかったような音になる」「CD読みだし時のエラー量が多いとヴェールがかかったような音になる」といった説と同じ領域かと思います。それらについて考えた内容は当Blogに記してきましたが、「コピー劣化説」は素人には(もしかして玄人にも?)確認しようがない点がモヤモヤするところですね。
 そのうち「アクセス劣化説」「地磁気影響説」なんてのも出てきそう…(苦笑)
 特にデジタルオーディオについては、課題によっては領域が異なるのだと意識しておく必要があると思っています。

 12/09/26追記:「FORS(*)」なるものがあるんですね。「御蔭石マウントHDD」上での第1世代と第10世代のコピーで聴きくらべると違いが出るのでしょうか。もし出たとしても私には理屈は解りませんが(苦笑)。

*:http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20091022_322907.html

 14/05/17追記:「リッピング条件が異なるとバイナリ一致でも音質差が発生するか」についても考えてみました。姉妹編みたいな関係になるでしょうか。


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