DSDの「MaxPeak」とは何か

15/03/28初稿

 PCM→DSD変換によるUDA-1の“なんちゃってNOS-DAC”用法の際、ちょっと気になってるのがこれ。

具体的にはDSDはPCMよりも最大で6dB低くなっている。澤田氏によれば、「DSDはノイズシェーパー(Δ∑変換器)の技術を用いて可聴帯域のダイナミックレンジを稼いでいるため、理論上の100%変調をかけるとノイズが増加してしまう」ため、抑えられているそうだ。
出典:http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20131029_618702.html

 この記事によると、SACD規格ではΔΣ変調をフルスケールの50%までで使うように規定されているようです。それ以上ではΔΣ変調歪みが出るからだそうで。

 とすると、PC側で行うPCM→DSD変換の場合も、変換前にPCMのレベルを絞ったりすべきなのでしょうか?
 そして、そもそも、PCM再生時にDACチップ側で行われるΔΣ変換はフルスケール(100%変調)なのでしょうか?


■6dBの謎

・アナログ事情を調べる
 早速、441Hz-6dBサイン波(2444フォーマット)を以下3種の方法で再生し、アナログキャプチャでレベルを比較してみました。

 A.≪foobar2000≫のリアルタイムDSD変換再生
 B.≪JRiverMediaCenter≫のリアルタイムDSD変換再生
 C.PCMそのまま再生(DACチップ内でΔΣ変換している)

 これらでは、少なくとも数dBも違うようには見えませんでした。
 PCMをΔΣ変換する際、ソフトもDACチップも、すべて6dB絞ってる? またはすべて絞ってない?

 DACチップから出てLINE-OUTされるまでのアナログゲインはPCMモードとDSDモードで同じに設計されているとは限りませんから、これではデジタルドメインで何か起こっているのか解りません。

・デジタル事情を調べる
 まず、“ライターがホントに解って書いてるのかアヤシイ(苦笑)”レポート記事や、メーカの宣伝文句などでこんがらがる前に「技術資料」を紐解きます。

・JPPAという協会の資料だと、「-6dBから+3.1dB上(つまりフルスケールから-2.9dB)が“MaxPeak”」とあります。
http://www.jppanet.or.jp/documents/audio_doc/jppa_chair_of_loudness_vol-1_2010.pdf

・TIのDACチップPCM1738の技術資料には明確に「DSDはPCMより6dB出力レベルが低い」とあります。
http://www.tij.co.jp/jp/lit/an/jaja008/jaja008.pdf

・以下プロ用(と銘打っている)サイトには、PCMのフルスケールがDSDの50%変調に相当する図があります。
http://www.super-audiocd.com/professional/guide5.php

 上記をふまえてweb記事を参照します。冒頭の記事には以下のような続きがあります。

 フィルターにもよるが、最大6dB低いため、DACからの出力をそのまま使うと、例えばSACDのハイブリッドディスクで、SACD層(DSD)とCD層(PCM)を切り替えると、DSDの方が音が小さくなる。これを補うために、多くのDACには“PCMの信号を抑えて”DSDのレベルに合わせる調整機能が搭載されているという。

澤田:モデルによっては我々の製品でもそうして来ましたが、言わば“リニアPCMが損をする”わけです。そこで、「SA-7S1」や「SA-11S3」ではそれをせず、DACからはレベル差がある状態で出力し、その後のアナログ回路のゲインを変えて、レベルを揃えています。
 しかし、ハイブリッドディスクのレイヤー切り替え再生では意味がありますが、SA-14S1の場合は、USB DACのファイル再生と対等に扱おうという考え方の中で、“信号がそうなのだから、SA-14S1ではそのまま出そう”と考えるようになりました。NA-11S1でも、ゲインの調整をせず、DSDが3dB低いまま出しています。ただ、ファイルの再生ではほとんど気になりません。

出典:http://av.watch.impress.co.jp/docs/topic/20131029_618702.html

#余談ですが、PS3のSACD再生音量がとっても低かったのは、上記と同じくそのまま出す仕様だったからかも知れません。


 これらから解ったことを示します。

・SACDのフルスケール=0dBは確かにΔΣ変調50%を意味している模様

・そのままだとDACチップからはDSDの0dBはPCMの-6dBのレベルで出力される模様

・ので、DACチップ内でPCMを絞ったり、出力後のアナログゲインでレベル合わせたりしている模様

・DSDには「Peak」と、それより3.1dB高い「MaxPeak」というふたつのピークがあるらしい

 PeakがMaxじゃないってどういうこと?

・アナログ事情を試す:準備
 というデジタル事情を踏まえ、DSDとPCMの実際のアナログレベルはどのような関係になっているのか調べてみます。
 marantzインタビュー記事によると、機器によって仕様はいろいろなようですが…

 まず、便宜上、“データ的な意味”でのゲインを以下のように表記することにします。

・DSD50%変調 = DSD0dB(よって100%変調 = DSD6dB)
・PCMフルスケール = PCM0dB

 正式には「SACD0dB」「0dBFS」などと表記するようですが、本稿においてはこの方が解りやすいと思いまして。
 なお、最終的なアナログレベルはアナログ段での増幅率によるのでこの数値と直接関係はありません。
 アナログキャプチャでのレベルは「DSD」や「PCM」を付けずdB表記します。

 次に、ファイルの再生波形をアナログキャプチャで観察する際の設定・条件を示します。

・再生装置
    UDA-1(PCM1795)

・再生ファイル
   サイン波 1200Hz-0dB/24192 ≪WaveGene 1.50≫で生成
   データ値改変を防ぐためリサンプラは使用しないので、
   PCM最高精度の192kHzで生成
   プラス側ピーク値が確かに7FFFFFh(0dB)になってることを
   バイナリエディタで確認

・キャプチャ環境
   ハード:Z68自作PCにSB-DM-PHD(2496モード)
   (オンボのLINE-INはPCMフルスケールは1dBほど下げないとサチるので)
   ソフト:≪WaveSpectra 1.50≫にて
     ・録音レベル79
     (PCMフルスケール≒キャプチャ時0dBになるよう調整した結果)

・DSD変換
   ≪AudioGate 2.3.2≫  SACDを想定して2.8MHzに変換(DSD64)

・プレーヤ
   ≪foobar2000 1.3.6≫  各種ヴァージョンは「基音と倍音」記事と同じ
       PCM→DSDリアルタイム変換再生の設定は以下の通り
         ・DSD128(UDA-1仕様内で使おうということで)
         ・TypeB(FP32)
       DSD→PCMリアルタイム変換再生の設定は以下の通り
         ・ASIO Driver Mode・・・当然PCM
         ・PCM Volume・・・0dB
         ・PCM Samplelate・・・88200
         ・DSD2PCM Mode・・・Direct(Double-Precision, 30kHz LF)
           #当設定では30kHzくらいでLPFかかる
            「Multistage」では設定したSamplerateのナイキストでかかる
            「Installable FIR」は何かインストールしてないと使えない

・アナログ事情を試す:結果
 上記条件で採取したUDA-1出力アナログレベルを以下に示します。プレーヤは≪foobar2000≫固定ですが、その設定および再生ファイルはいろいろになっています。
 参考情報として、その時PCM1795はどちらのモードで動いているか表記しました。PがPCMモード、DがDSDモードです。

1.PCM再生(P)
  ⇒0dB
     そのようにアナログキャプチャレベルを設定したのでアタリマエ。

2.PCM→DSDリアルタム変換再生(D)
  ⇒0dB
     実はこちらの方が1より0.4~0.6dB程度大きい。
     PCMとDSDではDA変換動作がどこかで違う?
     本稿の目的は3dBクラスの差違を見ることなのでとりあえず無視し、
     実際にはこちらを0dBに調整。

3.≪AudioGate≫でPCM→DSD変換したdsfファイルをDSDネイティブ再生(D)
  ⇒0dB
     2の≪foobar2000≫とはゲインの扱いは同じということ。

4.3のdsfをDSD→PCMリアルタイム変換再生(P)
  ⇒激しく音量低下
     目視だがおそらく半分=-6dB。

5.3のdsfを≪AudioGate≫で再び24192化したファイルをPCM再生(P)
  ⇒0dBに戻った
     4の≪foobar2000≫とはゲインの扱いが異なるということ。
     PCM→DSD変換では扱い同じだったが。

6.≪AudioGate≫でゲイン+3dB設定でdsf化したファイルのDSDネイティブ再生(D)
  ⇒完全にクリップ
     +3dBで再生している模様。

7.6のdsfをDSD→PCMリアルタイム変換再生(P)
  ⇒-3dBの一見マトモなサイン波が再生される
     -6dB + 3dB = -3dB になってると推定。
     そして、+3dBというゲインでも
     「“dsfファイル内のデータとしては”クリップしていない」ということ。
     これがPCMでは不可能な「MaxPeak」ではないか?

8.同じく+6dB設定で作ったdsfをDSD→PCMリアルタイム変換再生(P)
  ⇒ピークあたりの波形が崩れた
     -6dB + 6dB = 0dB になってると推定。
     つまりDSDファイル内ではフルスケールのハズ。
     なのにアナログ再生は0dB近傍まで届いていない。
     これが「50%以上の変調率だと歪みが出る」現象ではないか?


 この結果から言えることを以下に記します。

・DSDデータのピークはやはりΔΣ変調100%から-6dB(DSD0dB)が基本であって、DACチップ内でもその通り再生されているようです。

・UDA-1では「PCM0dBとDSD0dBの最終的アナログ出力レベルを揃えている」と言えます。「DACチップ内の処理 or 外の処理」「デジタル or アナログ」といった段階や方法は解りませんけれど。

・≪AudioGate≫では、「PCMとDSDの相互変換でDSD0dBとPCM0dBをイコールに置いている」っぽいですね。PCMのフルスケールから+3dBゲインアップして変換してもDSDデータとしては存在しえるようですが、PCMに戻すとサチってしまいますので。

・≪foobar2000≫では、PCM→DSD変換再生においては≪AudioGate≫と同じにしているようです。
 が、DSD→PCM変換においてはDSD6dBをPCM0dBに当てているようです。こちらは≪AudioGate≫とコンセプト逆ですね。
 つまりDSD0dBはPCM-6dBとして再生されるということです。明らかに音量が小さくなりますので聴感上も矛盾ありません。デフォルトでは、PCMで表現できない「プラスdB」の世界に絶対に入らないようにしているのでしょう。なので、0~+6dBまで調整可能なゲイン設定項目があるんですね。

・DSDには0dBを超えるレベルが存在できるようです(MaxPeak?)。ただし、大きくなると歪がでるみたいです(DSD変調歪み?)。
 引き続き以下で考えてみます。


■UDA-1のDSD3.1dB出力

・クリップしているのは出力か入力か
 実は、上記実験ではこれが判っていません。
 DSD0dB以上のdsfファイル再生(6番め)のキャプチャは、

・録音ボリューム下げてもサチる
・念のためやってみたM/BのオンボLINE-INでもサチる
・UDA-1純正プレーヤソフト再生でもサチる

ことから「入力側でサチった=出力が+3dB大きくなった」として進めていますが、これだけだと

「受け側でクリップしている可能性」
だけでなく、
「出力がクリップしてる可能性」

両方考えられるためです(厳密には両方ダメな可能性もありますが(苦笑))。

 一応、これを確認しておきます。
 どっちがクリップしているのか確かめるためには、どちらかで「確実にクリップしていない状態」を作る必要があります。
 そこで、UDA-1の出力をLINE-INが充分受けられるレベルに調整することを考えてみます。世の中にはゲイン調整するアダプタなどもありますね。

  ←-10dB     ←-20dB(商品説明にないけど)

 けど、このためだけに買うのもナンなので、「ボリュームを適量に絞ったUDA-1のヘッドホン出力」をキャプチャすることにしました。

 再生ファイルは、≪WaveGene≫で生成した0dBのwavを≪AudioGate≫でゲイン設定0dBと3dBでdsf化したものです。
 CDやSACDを意識して周波数は44.1kHz系で。ビット深度は波形歪みを見るので24bitで。疑似周波数が発生しないようサンプル数が整数になる1470Hzのサイン波としました。
 キャプチャ環境はハイレゾを聞いて見る記事と同じです。


1.DSD0dB (アナログキャプチャ)

DSD+0dB HP出力波形


2.DSD3dB (アナログキャプチャ)

DSD+3dB HP出力波形


 +3dB化したdsfファイルのDSD再生では、ゲイン弄っていない0dBのdsfファイルよりちゃんと3dB大きいと思われます。つまりDSD3dBの出力はサチっていないということです。
 これで、UDA-1のDSD0dB=PCM0dB以上のアナログレベルでサチっていたのはキャプチャ側だと判りました(ヘッドホン出力は大丈夫だけどLINE-OUTはサチってるなんてことはないでしょう)。

・キャプチャ側がサチったのは何故か
 サチったのはキャプチャ側だというのは判りましたが、サチった原因にもふたつ可能性があります。

「UDA-1のLINE-OUTは一般的だがキャプチャ側のキャパが一般機器より“小さすぎて”受けきれなった」
「UDA-1のLINE-OUTが一般機器より“大きすぎて”キャプチャ側が受けきれなかった」

 UDA-1仕様には2Vとあり、おそらく2.0Vppのことであり、DSD3.1dBがそのスケールだと思いますので後者ではないと思いますが、それを確かめるため「別の機器に入力してサチらないか」見てみます。
 UDA-1のLINE-OUTをAVアンプであるDSP-Z7のLINE-INに入れ、DSP-Z7のヘッドホン出力を採取。
 後者だとするとこれでもサチってしまうと推定されますが、UDA-1のヘッドホン出力と同じ結果となりました。


 以上より、

「UDA-1のアナログLINE-OUTのフルスケールはDSD3.1dBまでであり、PCMのフルスイングより3.1dB大きい」

ということが確認されました。
 そして、DSP-Z7(まっとうなAV機器の代表として)のLINE-INはそれを受けられますが、オンボやSB-DM-PHDといったPC用機器(*)のLINE-INの許容レベルは超えてしまうということですね。

*:PC用機器のLINE-INはPCMデジタル録音が主目的でしょうから、ADコンバータ入力のフルスケールを、PCM0dBの一般的アナログフルスケールレベルで規定&固定しているのかも知れません。ダイナミックレンジを正しく使うためには、音源の方のボリューム調整するのが基本なのでしょう。


■「DSD変調歪」を可視化する

・DSD3dBがワニャワニャしてるのは何故か
 上記DSD3dBのアナログ信号、DSD0dBを超えたあたりからやや乱れ、頭がワニャワニャしています。
 マトモなDACユニットならDSD3.1dBまでちゃんと再生できるハズですから、UDA-1のアナログ性能などの問題ではないでしょう。
 よって、これは例の“変調歪み”によるものだと思えますが、UDA-1の出力限界点に近いということもあり、断定は躊躇します。
 そこで考えました。
 上記のファイルをプラスdBゲインでdsf化した後、-6dB設定で再PCM化することで、「DSD領域でDSD0dB以上=変調率50%以上における変調歪み」をデジタルドメインのスペクトルで見ることができるのではないでしょうか。

 ただ、特にDSD3.1dB以上は“あっちゃダメ”な領域なので≪AudioGate≫の変換保証範囲外である可能性もありますけれど、本稿ではとりあえず無視しています。


0.DSD+0dB-6dB

DSD+0dB-6dB.png


1.DSD+3dB-6dB

DSD+3dB-6dB.png


2.DSD+4dB-6dB

DSD+4dB-6dB.png

3.DSD+5dB-6dB

DSD+5dB-6dB.png


4.DSD+6dB-6dB

DSD+6dB-6dB.png


 確かに50%~100%領域は「フォーマットとしては記録できるが音質はどんどん悪化する」領域っぽいですね。
 上記はスペクトルを優先しましたが、波形の方を拡大すると頭がウニャムニャしてるのも確認できます。

 また、ヘッドホン出力で確認した際やってみたところ、+4dB,+5dB,+6dB設定で作ったファイルのアナログ出力のピークは+3dBレベルにドンツキのまま(サイン波の頭が潰れていく)になるようです。

・PeakがMaxじゃないとはどういうことか
 つまり、DSDにおける「Peak」と「MaxPeak」とは、

「突入的なピークを許容するマージンとしてDSD3.1dBまでは許可する(=MaxPeak)けど、歪みが出る領域だから、なるべくDSD0dBで抑えときなね(=Peak)」

ということのようです。

 DSD音源商品で実際にあるかどうかは知りませんが、これを見ると、規格上許されてるからとMaxPeakまでガンガン突っ込む「DSD版海苔マスタリング」とかあったらヤですね… 元々海苔マスタリングなPCMデータをPCM0dB=DSD3.1dB設定で変換などされたら悲惨なことになりそうです。


■なんちゃってNOS-DAC運用に心配は不要

 冒頭に挙げた「PCMをDSDに変換することで“なんちゃってNOS-DAC”として使う時の心配事」についてまとめます。

・PC側でPCM→DSD変換する場合
 PCM0dB=DSD0dB(変調率50%)として変換されるようです。
 一方、DACチップはDSD6dBをフルスケールとして受け付けているようです。
 ですので、DSD変調歪みを考慮する必要はないでしょう。
 「PCM0dBを敢えてDSD3.1dBなどにゲインアップするのがデフォルト」といった仕様は多分ないでしょう。
 一応、変換ツールはそのヘンの仕様を確認してから使った方がいいとは思いますが。

・DACチップにおけるΔΣ変換の変調率
 UDA-1のPCMフルスケール再生においてDSD歪みは認められませんから、DAC内のΔΣブロックにおける変調歪みは充分考慮されていると考えていいでしょう。PCM0dBはDSD0dBとしてΔΣ変調されていると思います。まあ、アタリマエと言えばアタリマエですね(苦笑)。
 なので、「PCM再生の時も内部ΔΣ変換ブロックの変調歪みを考慮して3~6dBくらい下げて入力した方がいいカモ?」といったことはないでしょう。
 少なくともPCM1795では充分考慮されているようですし、一般的なDACチップもそうでしょう。
 万全を期すなら、DACユニットはそのヘンの仕様を確認してから使った方がいいとは思いますが。


■MaxPeakとDSD音源制作と再生

 とりあえずは一安心ですが、今度は配信などの「DSD音源商品」をDSDネイティブ再生する時の事情が気になってきました。当面やらないとは思いますが(笑)。

・「DSDファイルの規格」はどうなっているのか
 +3.1dBまで許容されているというのは、あくまでも「SACD用DSD」規格(ScarletBook AnnexD.3)のハナシです。
 SACDは専用プレーヤでしか再生できませんが、DSDファイルは単体DACユニットなど“ディスクプレーヤ”以外でも再生します。考慮すべき事情が異なりそうですが、「ファイルオーディオ用DSD」の規格はあるのでしょうか。

 DSD音源商品はSACD用を流用するケースが多いような気がしますので、事実上ScarletBook規格に準拠しちゃってると考えた方がよい気がします。また、後述するweb記事などを見ても、おそらくDSDファイル制作は“SACD用でなくても”ScarletBookの通り+3.1dBをMaxPeakにしてるのだと推察します。
 もし、DSD“ファイル”規格があって、フルスケールはDSD0dBまでという規定があったりするなら、ちゃんと“DSDドメインで”DSD0dBをピークにゲイン調整してから売ってるのでしょうか?
 たぶんそんなことしてないと思います(笑)。

 ですので、上記の通り例えばUDA-1のLINE-OUTを入れるとクリップしてしまうLINE-IN機器もありえます。
 その場合は、DSDドメインでのデジタルボリュームは一般的にはムリなので、DSDネイティブ再生しようとするとLINE-OUT後に絞るしかありません。まあ、問題になるのはPC関連LINE-INだけかも知れませんけれど。

・制作側はどうしているか
 次のphileweb記事によると、DSD0dBではなくDSD3.1dBをピークとしてAD変換しているようです。

レベル調整時には、SADiE上のメーターでチェックを行い、マックスピークが+3.1dBを超えないようチェックする。というのは、SACDとして販売し再生する場合は、SACDプレーヤー側に3.1dB分レベルを下げて再生する機能が入っていたが、PCで再生される配信音源の場合では、PC側にそういった機能がないため歪みの原因になってしまうのだという。
出典:http://www.phileweb.com/interview/article/201402/26/220.html

#主旨からは外れますが疑問点を。
 文脈では「+3.1dBを超えないようにすることでPC再生で歪みを発生させないようにしている」ように読めますが、ScarletBookに準ずるならそこで抑えるのは当たり前ですよね。
 「SACDプレーヤではDSD3.1dBをアナログ出力の最大振幅にしていたが、PCではしてない=PCM0dBをフルレンジとしているので“もともと”+3.1dBレンジオーバーするところにさらにオーバーすると“さらに”歪みの原因になる」と読解すればいいのかな?

 OTOTOYにも以下のような音源説明があります。

また、DSDのネイティヴ再生を念頭に置いて、リマスタリングしていますので、以下のことにお気をつけ下さい。DSDにはPCMよりもヘッドルームがあります。PCMの0dbの上に、3.1dbほど余裕があるのです。今回のDSDリマスターの中には、レベルが0dbを越えて、その3.1dbのヘッドルームに達しているものもあります。AudioGateでこうしたDSDのファイルをwavファイルなどに変換すると、ピーク時にクリップして、歪んでしまいます。クリップしないように変換したい場合は、AudioGateの変換時のゲイン設定を-3dbに下げれば、避けることができます。
出典:http://ototoy.jp/feature/20130402

 明確に+3.1dBまで使ってると言ってます。

 一方、e-onkyoの2L無料サンプルDSD64を≪AudioGate≫でPCMに変換したファイルの最大音量は0dB未満でした。
 2LではDXD(352.8kHz/24bit)のオリジナルソースからいろんなフォーマットに変換して商品化しているよう(*)ですので、DSDデータでもプラスdBゲインがないのでしょうね。

*:http://www.2l.no/hires/
  http://ascii.jp/elem/000/000/947/947845/index-4.html

 このように、DSDデータでもSACD用ではないマスタリングもあるでしょう。

・データの中身と再生機器と
 e-onkyoは次のように言っています。

DSDのほうが圧倒的に小さいのが波形からも確認できます。つまり、CDとDSDを聴き比べるときは、アンプのボリューム位置が同じではいけません。DSDを再生するとき、まずはCDと同じ音量感で聞こえるまで、グイッとボリュームをアップさせてください。音量さえ揃えれば、圧倒的なDSDサウンドの本質に触れることができるでしょう。
出典:http://www.e-onkyo.com/news/115/

 データの話としては大正解でしょう。が、実際の再生ではDSDとPCMのアナログゲインは再生装置によって違うので、「圧倒的に小さいとは限らない」ハズです。
 例を挙げます。

・アナログゲインとして「DSD0dBをPCM0dBに合わせる」プレーヤと、「DSD3.1dBをPCM0dBに合わせる」プレーヤがあるとすると、前者は「SACDの方がCDよりピークが3.1dB大きい」となり、後者だと「(MaxPeakをPCMのPeakと見るなら)同じ」となります。

・引用記事にある「DSDがPCMより3dB低いまま出す」というmarantzコンセプトは、DSD6dB=PCM0dB(MaxPeakであるDSD3.1dBでもPCM0dBより約3dB低い)と理解できます。「DACチップ処理そのまま」ということでしょう。

・見てきた通りUDA-1ではDSD0dB=PCM0dBですので、「DSDの方が最大値は約3dB大きい」となります。

 同じデータでも、DAC内やアナログ段でどう増幅・減衰するかによって最終出力は「DSD(SACD)の方が3dB大きい~3dB小さい」まで変わっちゃうワケです。実に6dBもの違いがあることに。
 DACユニット商品のコンセプトは業界内で統一されてはいないようですので、ここの事情を踏まえて評しないとこんがらがりますよね。

・PCMに変換する場合の注意点
 DSDファイルをネイティブ再生せずPCM変換する場合は注意が必要です(ファイル変換でもリアルタイム再生でも)。
 上述の通りDSD→PCM変換時のフルスケール(ゲイン)の扱いがツールによって異なるためです。もちろん固定ではなくデフォルト設定の違いですが、DSDの変調率に対して以下のようなケースがあります。

・100%をPCMの0dBにする  例:«foobar2000»
・50%をPCMの0dBにする  例:≪AudioGate≫

 DSD商品はScarletBookに準拠して50%を超える+3.1dBまでMaxPeakとして認められているようです。が、必ずその領域を使っているワケでもないようです。
 ので、OTOTOY記事にもありますが、MaxPeak領域を使っているDSDを≪AudioGate≫タイプのツールでPCMダイナミックレンジに収めるためには、DSDを-3.1dB下げる必要があります。
 が、領域を使っていない場合はデフォルトの方がDレンジを有効に使えます。
 これを間違うと激しくピークが潰れたり激しく音量が小さくなったりしますので、ツールの使いこなしには注意が必要でしょう。


 以上、本稿の総まとめとしては

「DSDファイル商品は結果的にScarletBookに準じて製作されているものがあり、最大音量がDSD3.1dBになっている楽曲がある」

「PCMからの変換の場合など、最大音量がDSD0dB、つまりPCMと同じ楽曲もある」

「PCMは0dB以上を表現できないので、DSD→PCM変換する時は要注意」

「アナログ化した音量としてDSDの方が大きいとか小さいとかってハナシは、アナログ化機器の設計に依存するので一般論にならない」

「DSDネイティブ再生アナログ出力レベルがPCM0dBより最大3.1dB大きくなるDACユニットもあるので、受け側が許容できるか要チェック」


ということですね。


■備忘録

・変調率50%以上だと歪むワケ
 例えば入力フルスケールが10のΔΣ変調器があったとして。
 レベル4のサンプルは「0」判定となり、0との差分4が次のサンプルにフィードバックされます。そのサンプルのレベルが7だったら足して11、オーバーフローします。サンプル値の上限が5なら、10を超えることはありません。
 原理はそういうことでいいのかな。単純すぎ?

・出力レベルと入力感度
 出力電圧2Vを入力感度200mVで受ける組合せの場合、入力側の有意な増幅(というか減衰)最大ゲインは「20 x log10(0.2/2)」で計算できる。このゲインで減衰させた時入力された2Vが内部で200mVになる。
 入力感度とは、その値がその後段回路のフルスケール(パワーアンプなら出力最大)になる値という意味。
 なので、組合せで決定される最大ゲイン以上に上げても入力後に歪むだけで意味がない。

 Vrmsは平均値(振幅の半分の)、Vppはピークトゥピーク(全振幅)。なので実際には同じ出力値でもVrms表記は少なくともVpp表記の半分以下になる。
http://www.g200kg.com/jp/docs/dic/rms.html

・オーサリング関連
http://surroundterakoya.blogspot.jp/2009_07_01_archive.html

・JPPA
 「日本ポストプロダクション協会」。
 「ポストプロダクション」とは、テレビ番組などのコンテンツ制作を技術面からサポートする業務とのこと。
http://www.jppanet.or.jp/annai/annai_top.html


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