音源制作プロセスを探ってみる

17/09/10初稿

 「HOT JAZZ」のハイレゾ商品にはいろいろ考えさせられました。

  ←もちろんこれはCDです

 実は、いろいろ考えた中で「制作プロセスの推定」も試みてたんですよね。DSDがイイカンジなのにPCMがめちゃピーク潰れしている理由を知りたいと思って。
 結局確定的なプロセスは判らなかったので煩雑さを避けるため記事からはカットしたのですが、モッタイないので(笑)別稿として記録しておこうと思います。

 ただし、少ない情報から仮定を含めて考えることになるので、合ってる保証は全くありません。趣味的に考えてみたもの、とご了承ください。


■機材情報を集める

 制作プロセス推定の手がかりとして、用いられた機材について情報を集めてみます。

・「DSD」「SBM Direct」
 まずはCDの帯やブックレットの情報をチェック。
 CDには表題のロゴがついてます。

SBM Direct

 調べてみると、「SBM Direct」というSONY製技術があるらしいです。


情報1.CDブックレット解説
 CDブックレットには以下のような解説があります(DSD64に関する一般的な解説も付いています)。DSDロゴとSBM Directロゴが初めて付いた「07:anthem」からずっと掲載されていますので、東芝EMI移籍のタイミングで変わったようです。

SBMダイレクトはDSDの2.8224MHzサンプリングのデータから、44.1kHzサンプリングの1ビット/16ビットデータへのダウンコンバージョンを行うシステムです。今までの機器のDATレコーダーやA/Dコンバーターにもこれと同じような働きをする回路が内蔵されていましたが、DSDの高音質をできるだけ維持しながら、16ビットの世界にダウンコンバージョンする為に開発されたものがSBMダイレクトです。DSD信号を一つのステージで、フィルタリングとノイズシェービングを行うことにより、再量子化エラーが除去されます。また、折り返しを最小限度に抑え、リップルを抑制しております。その目的の為に超精度シングルステージFIR(Finite Impulse Response)デジタルフィルターとノイズシェイバーが開発されました。このフィルターのタップ数は32,639という驚異的なもので、ソニーのリアルタイム・SBMダイレクトプロセッサーに搭載されています。

情報2.AV Watch記事
鈴木:DSD用に作ったマスターを元にしてPCM変換をしています。これにはSBM Directを用いています。

――あれ? SBM=Super Bit Mappingって24bitのオーディオデータを16bitに落とす際に使うディザーでしたよね?

鈴木:そうなんですが、ここで使っているのはDSDを44.1kHzのPCMに変換する装置です。SonomaからSDIFでSBM Directに送ると、PCMになって出てくるのです。スイッチがあって、これで16bitにするか24bitにするかの設定も可能になっています。

――とんでもなくデカい装置ですね! SBMってソフトウェアなのかと思っていました……。

鈴木:SBM DirectはSonomaよりも前にできているので1990年代後半だったと思います。かなりの大きさになっていますが、音質的には非常に優れていると思います。このSBM Directから出た信号をPCのワークステーションへ入れたらPCM版の完成です。

――単純にこの装置を通すだけで完成なんですか?

鈴木:基本的には、そのままなのですが、実際には補正を行なってはいます。というのも、DSDには3dB分のマージンがあるため、単純にPCMに変換すると3dB分音圧が下がってしまうため、そこを補正しないと弱く感じられてしまう。音質面では完成しているので、DSDの良さを残す形で調整しています。アルバムによっては、CD版はまったく違う雰囲気にするというというケースもあるので、その場合はマスタリングをやり直すわけですが、今回のアルバムではDSDにできるだけ近い雰囲気に仕上げています。

出典:http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/20131209_626834.html

 SBM=Super Bit Mapping。SBMという技術(2496などのPCMマスターをCD化する)があり、おそらくそれは一般名称ですが、Directが付くとSONY製DSD→CD化技術のネーミング(おそらく固有名詞)になるらしいです。
 なお、以下の通りCD化専用とのことですので、PCM2496とは無関係ということになります。

――その24bit/96kHz版って、どうやって作っているのですか? いまのSBM Directだと16bit/44.1kHzか24bit/44.1kHzしか対応していないんですよね?

鈴木:時代的にSBM Directは対応できなかったので、24bit/96kHzについては、他社製品を使っています。

出典:http://av.watch.impress.co.jp/docs/series/dal/20131209_626834.html

情報3.MMCDコンソシアム解説
SBMダイレクト(Super Bit Mapping Direct)はDSD(Direct Stream Digital)方式で収録された広帯域なきわめてアナログ信号に近い高速1ビットデジタルオーディオ信号の情報を可能な限りその純度を保ちながらCDのフォーマットに変換させる新技術。
鮮度の高いDSDの信号を超高精度デジタルフィルターと超高精度SBMによってピュアなアナログ情報を抽出し、CD化します。

出典:http://www.cds21solutions.org/mmcd/lecture/bodysau.html


 以上より、ロゴがあるということは、「何らかのDSDマスターがあり、そこからSBM DirectでCDデータを生成した」ことになります。

#ちなみに「SBM Direct」ロゴはDirectの方がSBMの上にレイアウトされていますが、ロゴデザインであって、各種情報では「SBMダイレクト」と表記されていますので名称としてはそれでいいでしょう。また、DSDロゴとセットになるワケですね。

・機材
 ブックレットには、使用機材として以下が挙げられています(ケーブルやマイクなどの受動機材は除きます)。

Special thanks from this recording to;
Accuphase Laboratory Inc. for providing
AD2401/DA9601 converters, PS1200/PS500, DP-600,
DG-48, DF-55 Sekiguchi Machine Selling co.Ltd.(後略)


 AD2401はADコンバータです。
https://www.accuphase.co.jp/cat/ad-2401.pdf

 DA9601はDAコンバータです。
https://www.accuphase.co.jp/cat/da-9601.pdf

 PS-1200とPS-500はクリーン電源です。
https://www.accuphase.co.jp/cat/ps-1200.pdf
https://www.accuphase.co.jp/cat/ps-500.pdf

 DG-48はイコライザです。
https://www.accuphase.co.jp/model/dg-48.html

 DP-600はAccuphase社のSACDプレーヤですね。
 デジタルI/F経由でDG-48を接続できるとのこと。
https://www.accuphase.co.jp/model/dp-600.html

 DF-55はチャンネルデバイダです(音源制作には関係ないと思われます)。
https://www.accuphase.co.jp/model/df-55.html

 とりあえず、2496のAD/DAプロセスがあるのは確かでしょう。


■以前のCD情報を調べる

 さらに、過去CDの情報も集めてみます。
 以下、分かりやすくするためアルバム名に発売順番号をふりました。

・DSDはどこへ?
 「22:HOT JAZZ」CDには「DSD」「SBM Direct」のロゴが付いてますが、DSD関連の機材はSACDプレーヤ(DP-600)しか記載がありません。
 はて? ということで、ロゴ初出「07:anthem」ではどうなっているか見てみます。

Special thanks from this recording to;
Accuphase Laboratory Inc. for providing
AD2401/DA9601 converters, PS1200/PS500,
Sony Corp. for providing DSD recording system,(後略)


 「22:HOT JAZZ」と比べると、DP-600らの代わりに「Sony Corp. for providing DSD Recording system」なる機材があります。“Recording system”ですからDSD-ADコンバータだと思われます。

 「基本2496制作で、当該機器でDSD化するプロセスがあり、CDはそのDSDをSBM Directで変換して作った」と考えるとしっくりきます。

 しかし、「Sony Corp. for providing DSD Recording system」は、「16:Adagio」以降ブックレットから消えました。
 でもDSD関連ロゴは付いたままです。「DSD-ADではない手段(普通に考えたらデジタル変換)でDSDマスターを作ってSBM Directを使った」と理解できます。

 DP-600は何に使っているのでしょうか。
 ぱっと見イコライザDG-48を接続するためのように思えますが、DP-600しか記載がないアルバムもありましたので違うでしょう。
 わざわざCDやSACDの円盤を試作して再生ってのはちょっと想像できないです。
 DSD-DAコンバータとして利用? でも、DSD64はHS-LINK経由でしか入力できないようです。プロ用には、HS-LINKでDSD64ファイルを出力できる機材があるのでしょうか。でも、だとするとDAC側のDP-600だけ記載してあるのも変な気がします。
 PCM-DAコンバータとして利用? だとするとDA9601と被ります。何らかの使い分けしているということでしょうか。

・DSD以前
 ちなみに、DSD関連ロゴが付く直前のアルバム「06:All For You」のブックレットにはこうあります。

This album was recording by Euphonix R1 24bit 96khz Sampling High Definition Recording

 Euphonix R1とはPCMマルチトラックレコーダとのことです。
http://connect.euphonix.com/documents/R-1brochure_V4r2.pdf

 シンプルに、DSDプロセスは無くPCM2496で制作していると理解でき、疑問点はありません。


■「HOT JAZZ」の制作プロセスを推定する

・推定のキモ
 ポイントは以下の通りです。

#以上はCDから得た情報ですが、配信用データも同プロセスの中で制作されていると思います(ポイント7参照)ので、そのまま採用します。

 ポイント0.制作現場では極力無駄のない制作プロセスを優先するハズ
 客観的情報ではありませんが、ポイントと考えていいと思います。
 商売ですので効率的にやりたいでしょうし、基本的にそれは音質的にもいいハズです。

 ポイント1.PCM2496のAD/DA機材が使われている
 機材がブックレットに記されていますので使われているでしょう。
 2496プロセスがあるということになります。

 ポイント2.「Sony Corp. for providing DSD recording system」は用いていない
 ブックレットから“削除されている”のでそうなのだろうと。何かが残っている場合は削除忘れかもしれませんが、消えているということは意識的に削除した可能性が高いでしょう。ポイント3に記す通り別の機材に置き換わってることからも。
 アナログをDSDでデジタル録音するプロセスはないということになります。
 ですので、DSD64商品は普通に考えたらデジタル変換で生成したものとなるでしょう。

 ポイント3.その代わりSACDプレーヤとイコライザが使われている
 まさか検品用ってことは無いでしょうから、制作プロセスで何かに使っているということになります。

 ポイント4.フォーマットはPCM2496だがスペクトルはDSD64
 普通に考えるとマスタリングより上流にPCM2496データがあるハズですが、そこからマスタリングしたものではなく、PCM2496をDSD64化した後にさらにPCM2496に変換して得たということになります。

 ポイント5.配信DSD64とピッチが違う(CDリッピングPCM1644ファイルとは同じ)
 前稿に示した情報です。
 DSD64からの再PCM2496化はアナログ変換ということになります。

 ポイント6.「SBM Direct」はPCM2496作成には用いられていない
 上述した情報によるとCD化専用ですから、2496には無関係ということになります。

 ポイント7.配信2496とCD1644の波形は酷似している
 配信のPCM2496ファイルとCDリッピングの1644ファイルはピッチが一致するだけでなく波形もかなり似ています。
 ので、CD用データは配信PCM2496生成源と同じPCMデータからデジタル変換で生成した可能性が高いと思われます。

・推定
 以上をふまえ、“現実的”に考えると、

 ・PCM2496で録音 ⇒ 編集 ⇒ デジタル変換でDSD64化
  ⇒ DSD64をアナログマスタリングしつつPCM2496録音で配信用PCM2496を生成
    ⇒ 配信用PCM2496からデジタルフォーマット変換でCD用PCM1644を生成


ではないかと。あくまでも個人的な推定ですが。

#DSD64はそのまま配信用かもしれませんしマスタリングするかも知れません。が、それは主旨上どちらでもよいので省きました。また、CD用1644生成の際にマスタリングしているかも知れませんが、それもどちらでもよいので省きました。

 DSD64から配信用2496とCD用1644を個別にアナログマスタリングしている可能性も無くはありませんが、それにしては波形が似すぎていますし、どちらもピークが潰れまくっていることからそこまでこだわった作りしてるとも思えないので、それは採りませんでした。

・矛盾点
 ただし、これだとブックレットにはある2496DA機器が登場しません。
 が、モニター再生には必須ですので使われているでしょう。もしかしたら、そこでDP-600も使われているのかも知れません(市販プレーヤでの確認という意味で?)。
 その意味ではDSDネイティブ再生機材がブックレットに無いのが気になりますが、PCM変換再生してると考えれば成立します。、

 また、SBM Directの出番が想定できません。
 上記推定だとDSD64→CD用1644のデジタル変換プロセスが無いためです。
 なのにロゴが付いてたりブックレットに説明がある点は矛盾となります。
 では、“矛盾を無くすため無理やりSBM Directを使う”とどんなプロセスになるでしょう?

・DSDとPCMのピッチ違いを成立させる必要があるので、どこかにアナログ変換がある
・2496と1644はピッチが同じである
・SBM Directで2496は作れない

は客観的条件ですから、

 ・PCM2496で録音 ⇒ 編集 ⇒ デジタル変換でDSD64化=DSD64マスターを生成
  ⇒ DSD64マスターをアナログマスタリングしつつDSD64録音=配信用DSD64を生成
  ⇒ DSD64マスターをデジタル変換してPCM2496化=PCM2496マスターを生成
   ⇒ PCM2496マスターから配信用PCM2496をマスタリング生成
  ⇒ DSD64をSBM Directで変換してPCM1644化=PCM1644マスターを生成
   ⇒ PCM1644マスターからCD用PCM1644をマスタリング生成


となるかと思います。
 が、「DSD64再生をDSD64録音すると30kHz以上のノイズが重畳されてしまうのではないか」「DSD64→PCM2496できる手段でPCM1644化もできると思われるが、なぜ敢えてSBM Directを使うのか」「手間かけるメリットが解らない」など、いろいろ疑問があります。

 やっぱり無理があると思えますので、本稿では矛盾を残したまま先のプロセスを採っておきます。


■ロゴやブックレット情報の意味

・21:Very cool
 前稿に記した通り、

・ハイレゾなかった時(20:C'est La Vie以前)
・ハイレゾPCMを追加した時(21:Very cool)
・さらにDSDを追加した時(22:HOT JAZZ)

で異なる制作プロセスを用いていると思われます。

 中でも、「21:Very cool」には以下の特徴があります。

・何故か高域にノイズ盛り上がりがある
・15kHzくらいから発生している状態は、配信PCM2496とは異なっている(DSD特有のノイズとは異なる)
・これはひとつ前の「20:C'est La Vie」までは見られない
・ひとつ後の「22:HOT JAZZ」にも見られない
・ピッチは配信2496と同じ
・波形は配信2496とかなり似ている

 ロゴが付いてることを尊重すると、ハイレゾ商品がなかったこの前作までは「SBM Directによる変換」だったことになりますから、それとスぺクトルが異なる本作は「SBM Directによる変換ではない」ことになります。
 SBM Directのパラメータを変えた可能性も否定はできませんが(理由は想定できませんが)、普通に考えると別の手段で2496を作っているのですから、その手段で1644も作れると思われ、1644だけSBM Directを使うとも思えません。
 ロゴがついてるのは辻褄合いませんねぇ。

 ロゴやブックレットの説明は変わっていませんので、「バージョンアップで2496にも対応した」とも思えません。
 もしそうだったら、説明文も合わせてバージョンアップしてないのはやっぱり辻褄合いません。
 また、SONYさんのことですからネーミングも「SBM Direct Pro」とかに変更しそうですけれど。

・22:HOT JAZZ
 上記推定が正しいとするなら、

・ブックレットにDSD機材がないのにDSDロゴがあるのは何故か。デジタル変換なのか
・SBM Directの使いどころがないがロゴがあるのは何故か

といった疑問があります。

・23:Twilight,24:Piazzollamor
 本作以降のタイトル「23:Twilight」「24:Piazzollamor」にもDSD版があり、フォーマットをDSD128やDSD256へ変更しています。
 これらの音源は所有していませんが、CDに「DSD」「Direct SBM」ロゴが付いていることは確認しました。
 あくまでも想像にすぎませんが、時代的にSBM DirectはDSD64専用でDSD128や256は扱えない気がします(上記情報ではソースはDSD64しか記されていませんし)。
 「22:HOT JAZZ」以上に、ロゴには疑問を感じます。

・ヘンテコなCD
 備考的な話ですが、古いJ-POPのCDでヘンテコな事例を発見しました。
 ブックレットやCDジャケットでは演奏時間4:14となっている曲が、プレーヤソフトやCUEファイルでは3:57なのです。実際、imageリッピングで聴いてもブックレット歌詞の途中でブツ切れてしまいます。
 アルバム全体がそういう演出になっているので意図的に切った可能性も捨てきれないため、「普通に収録する予定だったが途中で変更したことをブックレットやジャケットに反映し忘れた」のか「音源編集でミスった」のかは判断しかねます。
 が、いずれにしても「ブックレットへの疑念」の事例にはなると思います。

・ロゴやブックレット情報をどう見るか
 ということで、結局制作プロセスはハッキリとは解りません。当たり前ですけれど。
 推定するプロセスを楽しめましたのでそれはそれでいいのですが、敢えてこの作業で得たものを記すなら、「ロゴやブックレットの情報って大丈夫?」ってことですかね。

 ということで、「ロゴなどの情報から音質関連の判断する場合は慎重を期そう」と思います。


 最後に念のため繰り返しますが、本稿に記す内容が事実である保証は全くありません。ですので、当然ながら「矛盾がある」「大丈夫か」などはあくまでも個人的な判断です。


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